医療費が高額で負担が大きい場合に使える高額療養費制度

高額療養費制度の利用

急な病気や怪我に対する保険として助かるのが「医療保険」や「がん保険」です。いつどこでどんなことがあるかわかりませんので、一定の備えがあると安心して暮らせます。

しかし、定年を迎えて老後家計を見直すときに、ぜひ頭に入れておきたいのが「高額療養費制度」です。

この制度を使えば、保険に頼らなくても医療費をまかなえる場合が多いこと、そして月々の保険料の負担を減らす効果も期待できます。

高額療養費制度の概要を把握しておき、老後の暮らし・家計の中で、保険はどれくらいサイズが適切なのか改めて検討し直しておくと良いでしょう。

医療費が高額になった場合にお金が戻ってくる

現在、医療費の自己負担分は原則3割です。残りの7割は健康保険で賄われています。

しかし、入院したり治療が長引いた場合は医療費の自己負担が高額になってくることもあるでしょう。そんなとき、一定額(自己負担限度額というものが決まっています)を超えた部分が「高額療養費制度」によって戻ってきます。

自己負担限度額は、年齢や所得に応じて計算されています。

70歳未満の人の自己負担限度額の計算式

所得区分自己負担限度額
月収83万円以上25万2600円 +(かかった医療費 ー 84万2000円) × 1%
月収53万~79万円16万7400円 +(医療費 ー 55万8000円) × 1%
月収28万~50万円8万100円 +(医療費 - 26万7000円) × 1%
月収26万円以下5万7600円
住民税非課税世帯3万5400円

例:64歳で入院。医療費100万円(支払い30万円)の場合

たとえば、64歳で月収28万円の人が入院して医療費が100万円かかったとします。通常であれば、自己負担額は3割なので支払いは30万円ということになるのですが、このうちいくらかが戻ってくるのです。

この人の自己負担額はいくらになるのでしょうか。

上の表の計算式に当てはめると、

8万100円 + (100万円 - 26万7000円) × 1% = 8万7430円

となります。そして、払い戻し額の計算は、実際に支払った自己負担額から、上で計算した自己負担限度額を引きます。

30万円 - 8万7430円 = 21万2570円

高額療養費制度に必要な書類、申請手続きの方法は?

申請手続きの方法は2つあります。

医療費を支払う前か後かで手続き方法が変わります。

医療費を払った後に申請する場合

書類の提出先窓口は保険者によって異なるので問い合わせが必要です。健康保険証に「保険者名」として記載されています。

実際に医療費を支払ったあとに、窓口に申請します。還付金は3~4ヶ月後に口座振替で支払われます。

必要な書類

  • 高額医療費支給申請書
  • 領収書
  • 保険証
  • 印鑑
  • 預貯金通帳(振込口座がわかるもの)

医療費を払う前に申請する場合

まずは加入している保険者の窓口に行き「限度額適用認定証」を交付してもらいます。そして医療機関の窓口に認定証を提示します。

医療費の負担が大きい場合、この事前に申請する方法をとっていれば安心です。実際に限度額を超えるかどうかわからない場合でも、申請は可能です。

※70歳以上の方は、手続きの必要はありません。自動的に窓口での支払が自己負担限度額までになるからです。

高額療養費制度の注意点

高額療養費制度はすべての医療費に対して適用されるわけではありません。

入院時の食事や居住費、ベッド代、先進医療に掛かる費用は対象外です。

月をまたぐ入院は制度が適用されない場合も

また、計算は1ヶ月単位(月初から月末まで)で行われます。

医療費の総額が基準以上に達していたとしても、月をまたいでしまうと金額分散されて高額療養費制度の対象外となってしまうこともあります。

自分で操作することができない部分なので仕方がないところですが、このようなシステムであるということは覚えておきましょう。

医療費が高くなった場合は確定申告で戻ってくることも

1月1日~12月31日の間に支払った医療費(自分と家族の合計)がいくらになったか計算しておきましょう。

総額が10万円を超えた場合や、高額療養費制度を使った場合は「医療費控除」を受けることで、所得税がいくらか還付される場合があります。

実際に支払った金額(上限200万円) - 保険金などによる補填金 - 10万円 = 医療控除の金額

医療控除(国税庁ホームページ)

医療費は思ったほど高額にならない

それぞれの健康状態には違いがあるので一概には言えませんが、医療費は思ったほど高額にならないケースが多いです。

ある程度の預貯金があれば、無理をして医療保険やがん保険に入る必要はありません。

自分にとって毎月の保険料の負担はどれくらいなのか、高額療養費制度を使った場合はどうなのか、よく比較して検討する必要があります。